怖がらなくていい顎関節症

お役立ち情報

ようやくポピュラーになってきた顎関節症、特に女性に多いこの症状ですが、いまだに正しく理解できていない国民のなんと多いことか(チコちゃん?)

医療人は健康番組のチェックを欠かさない(たぶん)

 日本はしばらく前から健康ブームなのだそうです。みなさんも『ガッテン!』とか『名医の〇〇』といった健康がテーマの番組が大好きなのではないでしょうか。わたくしも大好きです(笑)。と申しますか、欠かさずチェックしとかないと、患者さんに「ねえセンセ、昨日のテレビで志の輔さんが、〇〇病は××だって言ってたけど、あれホントかしら?」などと高確率で尋ねられます。そんなわけで、医療者の矜持をもってお応えしないと、「センセも、あの番組は観といたほうがいいよ。時代に取り残されないためにさ」などと突っ込みが入るのです。ですから、まあ歯医者にあまり関係ない番組はスルーするとしても、こと“歯”とか“顎”とかがタイトルに来たら、それはもう死に物狂いで(冗談)番組をチェックすることにあいなるのでございます。

口が開け辛くなるばかりが顎関節症ではない

  • 顎関節症を扱った健康番組も、最近はちらほら放送されるようになってきました。だけど気に入らないのが、顎関節症に含まれる症状を、「歯牙接触症」とか「くいしばり症」といったさも違う病気のように喧伝する医者、歯医者が現れてきたことです。それも金儲けのためだったり、学会で優位な立場を確保するためだっりと、内情は浅ましい限り。
     どうしてこんなことになったのか……それは“顎関節症イコール口が開け辛くなる病気”だと、ちょっと健康を知ったかぶりする人のあいだで認識が定着してしまったからだと思っています。たしかに顎関節症で口が開かなくなる人はおられますが、そのような患者さんはほんのひと握りで、最重症例なのだ、とまず申し上げておきます。
     では口が開け閉めしにくい以外に、どのような症状が見られるのでしょうか。 

代表的な顎関節症の症状

  1. 頭痛、首こり、肩こり、目の奥の痛み
     顎関節症は過度の肉体的および精神的ストレス、噛み合わせの不調和、寝相や癖などにより、強く食いしばる、歯ぎしりをすることによって発生します。このため、顎を動かす筋肉が酷使されて、これが一種の筋肉痛を起こすことによって頭痛、肩こりが発生してきます。頭の両脇、首筋の筋肉(側頭筋、広頸筋、僧坊筋など)がこれにあたり、緊張型頭痛、緊張型肩部痛と言われる症状が現れます。特に前者は有名で、日本人の頭痛の7割がこれにあたるとする頭痛外来専門医の知見もあります。
     また、顎を引き上げる筋肉は眼球のうしろにも走っていて、これが疲労することにより眼精疲労のような症状を伴うことがあります。
  2. 耳鳴り
     耳鼻科医のあいだでは耳鳴りは厄介もの扱いです。さまざまな原因がありますが、そのうちのひとつが顎関節症であるとされています。鼓膜を緊張させる神経(鼓索神経)が顎の関節付近を通っていて、これが噛みしめにより刺激されるからではないか、と言われています。
  3. 歯の痛み
     強く食いしばることにより歯の内部に存在する歯髄、いわゆる神経が充血を起こし、ちょっとした温度刺激でしみる知覚過敏を引き起こすことがあります。また、強い力がかかり続けることにより歯を支える組織がダメージを受け、固い食べ物がかみ砕けなくなることがあります。顎関節症が原因で歯科を受診する人のほとんどは、これがきっかけではないでしょうか。
       虫歯の症状に似ているため、顎関節症の知識がない歯科医が、安易に歯を削ったり神経を取り除こうものなら、症状が改善しないばかりか、痛みや障害が増悪し、治療の終わりが見えなくなることもしばしば見受けられます。とにかく、虫歯じゃないのに虫歯のような痛みを感じる場合は注意が必要です。
  4. 口が開かない、閉じない、耳の前付近が痛い
     以上a~cの症状が続くと、いよいよ顎の関節に症状が現れてきます。最初は開け閉めする際に「コキン」と音が鳴る程度ですが、その「コキン」のたびに関節の内部では小さな真空の泡が発生し、それが潰れる時に、ごく小規模な爆発を起こしています(キャビテーション現象)。そんなことが続くと、顎をスムーズに動かしている軟骨に穴が開いたり位置が変わったりして、しだいに顎が動き辛くなっていき、しまいには口が開かない、閉じないないといった症状が現れてきます。

顎関節症の治療

どんな病気にも共通しますが、正しい認識で且つ早期に治療に着手するのが肝要であることはいうまでもありません。

  1. 薬物療法
       顎の関節や筋肉の痛みを軽減する薬を1~数週間ほど服用していただきますが、あくまで治療の初期に使うだけで、継続的に飲んでいただくものではありません。
  2. 顎にかかる力を軽減する
       頬杖をつく、うつぶせ寝をする、爪や鉛筆を咬むなど、顎に食事以外の強い力がかかることは、日常の何気ない癖であっても極力やめてもらいます。
  3. マウスピースの装着
       顎にかかる力を分散、軽減することが肝要なのですが、なにぶん無意識下で行なわれることなので百%これを回避することは不可能です。ましてや、就寝時の食いしばり、歯ぎしりは如何ともしがたい。しかも、眠っている間の方が強さ、回数ともはるかに多い。これを防ぐために、プラスチックでできたマウスピースを装着していただく場合があります。
  4. 姿勢に注意
      スマホやパソコン、携帯ゲーム機の画面を注視するときには、身体の軸より頭を前に倒さないでください。やってみるとわかりますが、頭が前に傾くにつれて、自然と噛みしめてしまいますので。 
  5. 無意識の食いしばりに気付く
       食いしばりや噛みしめは、誰にでもあります。嫌なことを思い出したり、なにかにイライラしている時に、無意識に食いしばってしまいます。だからといって食いしばらないように意識しすぎますと、いつもボーッとしていることにもなりかねませんので、もしも食いしばっている自分に気付きましたら、「いけない、いけない」と心に言い聞かせてください。それだけで随分と食いしばりの頻度は減るはずです。
  6. ストレス軽減
      これが最も効果があり、ストレスの軽減があってはじめて治療を成功に導けるとも言えます。これについては次項、「顎関節症の最良のクスリはストレス軽減」をご覧ください。