令和2年3月より全国の小中高校が政府要請で休校になります。デマによりトイレットペーパーの買い急ぎも発生しており、国民の意識は「ヤバイ!」というものへ一気に傾いたのではないでしょうか。しかし新型コロナウイルスを正しく理解すれば、必要以上に怖がらなくてもいいのです。
“新型”の何が心配なのか
これまでに「新型」と名のつくウイルス感染症はありました。聞き覚えがあるであろう順に列挙しますとSARS、MERS、 ジカ熱、エボラ出血熱、西ナイル熱、マールブルグ熱──しかし、騒ぎになったという点では新型鳥インフルエンザと今回の新型コロナが双璧でしょう。本稿では、この二種のウイルスについて対策を一般の方にもわかりやすく述べます。予防、注意点はほぼ同一で、既に厚労省が喚起したコロナ対策によって、今シーズンのインフルエンザ感染はぐっと少なくなっておりますのがなによりの証左です。
新型だけに免疫を持っている人がいない
子供の頃、友達がおたふく風邪にかかると、「ほら、◯◯君のところへ、もらいに行ってきな!」なんて今ではひっくり返るようなことをいう豪胆なお母さんが結構いました。おたふく風邪の原因であるムンプスウイルスは遺伝子レベルでの変異が少なく、一度罹れば生涯罹らない、事実上の終生免疫を獲得できるからなのですが、今これを、特に医療者である自分が言ったら炎上ものだな。
しかし、天然痘ワクチンの発明以来、人類は一度かかれば生涯かからないウイルス感染症は何か、ということを経験的に把握してきたのです。ですから世の中で、過去にウイルスに感染した人が一定以上存在すると、全人口的に感染者が爆発的に増加し、経済や国家の機能が失われるなんてことはないのです。また、ウイルスの遺伝子型がわかっていれば、感染流行前にワクチン接種で迎え撃つことができる。
裏を返せば、今回のコロナウイルスでは、これがまったく通用しない。だから世界中が泡を食っているわけなのです。
感染力が強い
コロナとインフルの感染様式は飛沫感染と接触感染です。勘違いしている人も多いのであえて言及しますが、ウイルスが漂っている空気を吸い込むことによる空気感染ではありません。
ウイルスを含む唾液・鼻汁、痰やその飛沫を口や粘膜から体内に取り込むことによって感染します。しかし人混みや学校などで他人との距離が近い場合、身体のどこかに飛沫を浴びている可能性があり、手洗いの励行、マスク装着、換気が推奨されるのはこのためです。
※空気中を漂う飛沫は、どこかに付着しなければいずれ乾燥して感染力を失います
具体的な予防法
もうね、さんざん言われてきたことを焼き直すのもしんどいのですが、要点をかいつまんで列記します。
手洗いの励行
先に述べたとおり、コロナもインフルも飛沫感染、接触感染です。ウイルスを含む飛沫、液体を口や鼻に入れさえしなければいいわけです。ですから他人が触れたもの──ドアノブや吊革などに触れたら手洗いをきちんと行えばかなり防げることになります。
WHO・世界保健機関は手洗いのガイドラインを医療従事者向けに提示していますが、一般の方にはチト難しいので、下記なんかがわかりやすくていいと思います。
以下に要点を列挙します。
①石鹸で指先から手首まで入念に手洗い(薬用石鹸でなくてもよい)
↓
②流水で十分に流す
↓
③きれいなタオル、紙タオルで拭き取る
↓
④アルコール手指消毒薬をすりこむ
コロナウイルスがまとっている膜がアルコールに破壊されやすいことから、消毒用アルコールが品薄になっております。苦肉の策としてスピリタスのようなアルコール純度が高いお酒で代用する向きもありますが、場合が場合だけにやるなとは言えません。ただ、純度が高すぎるアルコールはすぐに揮発してしまい効果が薄くなります。医療機関で使われている消毒用アルコールが濃度70%なのは、水で薄めてすぐに揮発するのを防ぐ意味合いがあり、ポンプ式のアルコール消毒液に保湿剤が含まれているのもこのため。従いまして、純度の高いアルコールは水で薄めるなどして濃度を適宜調整してください。某医師会関係者の話では、スピリタスは80%くらいに薄めると良いそうです。
また、同じアルコールでもメタノール(メチルアルコール)を使用しては絶対にいけません! これが分解されるとホルマリンが生成され人体に有害です。戦後の動乱期に飲んべえがメタノールを飲んで失明した事例もあります。手指消毒にはかならず「消毒用」、「エタノール(エチルアルコール」と明記された製品を使用してください。
手に触れるれ箇所の清掃
消毒用アルコールで丁寧に拭き取るのが原則ですが、アルコールが手に入らない場合はキッチンハイターなどの塩素系漂白剤でドアノブなどの清掃を行います。市販品の多くが5%次亜塩素酸ナトリウムを含みますが、1%程度に薄めて使います。手指に使うと肌荒れを起こすことがありますので、手についたらよく洗い落としてください。それでも消毒用アルコールが手に入らないなど、緊急を要する場合は下記をご参照のこと。
マスクの着用
先の鳥インフルの時から言われているので、多くの方がすでにご存知でしょうが、マスクの着用は予防ではなく、すでに感染が疑われる方がくしゃみでウイルスを撒き散らさないため、という意味合いが大きいです。しかしまったくの無駄でもありません。
不用意に顔面へ飛沫を浴びた場合、侵入経路となる口元が守られるため、感染のリスクを減じることができますが、それは正しく装着した場合。下図を参考にしていただきたいのですが、医療関係者では常識の範疇です。
加えて、マスクの裏表には明確な決まりがあって、ギャザー(ひだ)のかぶさり方で判断してください。汚染物質の多くは上から侵入しますので、これを少しでも減じる必要があります。
※医療用の高性能マスクにはギャザーの無いものもあります。
人混みに行かない、など
「など」としたのは、人混みでの感染リスクが多岐にわたるからです。
なるべく他人との距離を確保する。
くしゃみエチケット、マスク装着でも、感染飛沫を完全に防ぐことはできません。他人との距離を確保する、イコール、人混みや密室での集会を避けるにこしたことはありません。トイレットペーパーの争奪戦で、アカの他人と濃厚接触するなんて愚の骨頂。絶対にやめてください(転売も)。
他人が触れたものに触らない
電車の吊革、ドアノブ、エスカレーターのベルト、エレベーターのボタン──どうしても触らなきゃならないシチュエーションが生じます。テレワークが推奨さるのはこのためなんですが、不要不急の外出を避けろと言われても、食料品の買い出しは必要不可欠です。アマゾンパントリーやイオンの宅配サービスで生鮮品を購入したとしても不安は拭いきれません。なにせ配達員は外部環境に晒されているのですから(十分に配慮はしていることでしょうが)。
となりますと手指消毒、身体を清潔に保つことが何より大切です。
また厚生労働省は食物からの感染について下記のように述べています。あまり心配はいらないということです。
食品そのものにより新型コロナウイルス感染症に感染したとされる報告はありません。
厚労省ホームページより引用
ただ、食品や食事の配膳等を行う場合は、不特定多数の人と接する可能性があるため、接触感染に注意する必要があります(※)。食器についても同様で、清潔な取扱を含め十分お気をつけ下さい。
※接触感染は新型コロナウイルス感染症の主要な感染経路の1つです。
コロナウイルスは熱(70度以上で一定時間)及びアルコール(70%以上、市販の手指消毒用アルコールはこれにあたります)に弱いことがわかっています。製造、流通、調理、販売、配膳等の各段階で、食品取扱者の体調管理やこまめな手洗い、手指消毒用アルコール等による手指の消毒、咳エチケットなど、通常の食中毒予防のために行っている一般的な衛生管理が実施されていれば心配する必要はありません。WHOからの一般的な注意として「生あるいは加熱不十分な動物の肉・肉製品の消費を避けること、それらの取り扱い・調理の際には注意すること」とされています。
意外と盲点なのなのが、品定めのために商品に触れる行為。神経質になる必要はありませんが、家電のデモ商品、特にパソコンやケータイ端末は注意が必要かもです。もちろん入念に手指消毒すれば問題ありません。携帯型のウェットティシュがあれば便利ですが、これも品薄のようです。先週ですがヨドバカシメラでは出入り口にポンプタイプのアルコール洗浄液を置いていましたね。今もあるといいのだけれど……
眼球とその周辺からの感染も懸念されております
眼球は露出した神経組織ですし、周囲には眼瞼粘膜があります。不用意にくしゃみ飛沫を浴びればウイルスの侵入経路になりえます。ただ、周辺部までを防護したゴーグルでなくても伊達めがねであるていどは防護可能です。要は飛沫を直接、眼球に浴びなきゃいいのですから。
同様の理由で、汚染された指で目をこするのはご法度です。花粉症のシーズン、アレルギーのある方は記憶していてください。
いちばん大切なこと
とにかく健常な方なら重症化するケースは稀です。
注意が必要なのは妊婦、新生児、高齢者、基礎疾患(糖尿病、ぜん息・COPDなどの慢性呼吸器疾患、がん、重症高血圧、免疫不全症および免疫抑制剤使用者)のある方です。比較的弱年齢で重症化する人は過労やヘビースモーカーであると言われています(厚労省は無見解)。
以上に該当する人は、厚労省のホームページを参考に万全の対策を取られてください。
では健常者はどうなのか……
どんなに注意していても新型コロナにかかることもあるでしょう。
しかし、大半の人が無症状に経過しますし、必ずしも感染源として周囲の人に迷惑をかけるわけではありません(下図参照)
全身を清潔に保ち、暖かい環境に身を置き、きちんと食事をして、過労を避けつつ十分に休息をとる、これに尽きるわけです。
今後、どうなるのか
一日も早い感染の終息が切望されるわけですが、新型ウイルスによる集団感染で、一定量の流行を阻止することはかなり困難です。感染から回復して免疫を身につけた人が一定量の数に達しないと、感染拡大は終息しない、と少なくとも政府は覚悟しているようです。今は社会・経済に甚大な悪影響を与えないよう、感染の山をできるだけ低くして乗り越えよう、というところでしょう。
同じコロナウイルスの一種である重症呼吸器症候群・SARSの終息宣言がなされたのが4月。発見から8ヶ月後のことでしたから、今般の新型コロナも発見から8ヶ月後の今年7月末→だからオリンピックは中止だあ〜とばかりに不安を煽る輩がいますけど、注目していただきたいのはSARS終息が春だったこと。空気が乾燥する冬季では、粘膜も乾燥しますから容易にウイルスの侵入を許してしまいます。これが春になったら……。わたくしは預言者ではありませんが、暖かい春の日差しを心して待ちたいと祈念しております。
当診療所の取り組み(かかりつけ患者さん向け)
このエントリーはかかりつけ患者さんに向けて書いたものなので、医療関係者におかれましてはプロモーションなどと思わずに、大目にみてやってつかぁさい!
①複数の人が触れる箇所については次亜塩素酸ナトリウムによる清拭を行っています
②流行前から消毒用アルコール、マスク、グローブを4月末ぶんまでの必要量をストックしています。
近隣で鶏舎ごと鳥インフルにやられたところがあっての教訓で、今般は偶然にすぎませんが。
※有償・無償にかかわらずマスク等をお譲りすることはありません。