昨日、イオンモールの食品売り場で、写真のパンをみつけ、思わず購入してしまった。山を頂上から露天掘りした“道遊の割戸”をモチーフにしたこのデニッシュ、そのパッケージに「佐渡を世界遺産に」とあるから、ユネスコ登録以前に企画された商品だったのだろうが、新潟日報や県、自治体の素早い動きを見るにつけ、佐渡金山パンの商品企画は出来レースを見越したものだったのだろう……いやいや、お祝いムードに水を差すようなことは言わないでおこう。
とにかく、佐渡島民のみなさん並びに世界遺産登録に尽力された方々に祝意を表します。おめでとう!
佐渡への個人的な感情
私は新潟県民だから、本土からわずか30㎞の海上に浮かぶ風光明媚な島を訪れる機会は多かった。観光で、学校行事で、そして登山で10回近く訪れている。しかし、それはかなり昔のことで、最近では島内で開催されるマラソン大会にエントリーしようかと心が動いたくらいなのだが、なかなか足が向かなかった。その主な要因は、観光地としての佐渡島の衰退にある。
ベストセラー小説『日本沈没』を著したことで知られるSF作家、故・小松左京さんとの対談のため、新潟から大阪へ空路、日帰りで弾丸ツアーを決行し2009年のこと。新潟空港から伊丹へ向け、眼下の地形を目に焼き付けたその帰路、妙高山上空付近から新潟県に差し掛かる頃にはすっかり日が暮れていた。それでも新潟の海岸線は北陸道に連なる町の明かりに縁取られ、はっきりと確認できた。しかし佐渡ヶ島は島の玄関口・両津の夜景がわずかに見えるていどで、全島が闇の底に沈んでいた。かつては人口10万を数えた同島も見る影げなく、まるでランドサットで捉えた夜の朝鮮半島。38度線から北は真っ暗で、北朝鮮の経済事情がうかがえる、まさにそんな感じだった。
観光にしても、私はあまり良いイメージを持っていなかった。
例えば、フェリーターミナルで観光バスを、達者浜で尖閣湾めぐりの遊覧船を待っていると、地元の老人たちが手に手にビニール袋を下げて観光客の列に近寄ってくる。砂利浜で拾い集めたのだろうか、佐渡で採れる赤玉石や、乾燥ワカメを売りに来るのだ。これが、どこの待合でもこうだから、その商魂逞しさに辟易したものだが、今にして思えば、島内に漁業と観光以外に目ぼしい産業がなかったからであろうと推察している。当時はバブル黎明期。佐渡観光への動員数は100万人を数えていた時期であるにもかかわらずだ。まるで、ひと昔前の東南アジア諸国で見られた物売りのよう。
余談だが、物売りの圧に負けた母親が買った乾燥ワカメには、三陸産と明記されていた(笑)
それと、冬の日本海を渡っての佐渡観光はほぼ成立しない。故に、オンシーズンで一年の稼ぎを叩きだそうとしたのか、なんとなく割高に思えた。季節料金が設定されていたのかもしれないが、今はどうなのだろう?
リピーターの獲得こそが、佐渡観光の生き残り策
私のような一介の町医者が言うのもおこがましいが、商魂逞しさが全面に出ては、旅の良いイメージは残らない。これからの佐渡は、金銀山を中心に集客を図っていくのだろうが、それだけでは弱い気がする。世界遺産のシンボルとも言える道遊の割戸も、ラピュタのような趣で売り出し中の北沢選鉱所跡も、過去の佐渡行きで見たためしがない。大野亀に群生するトビシマカンゾウの群落も危機的状況だと耳にした。第一、そこ行くまでの道が細い。本体の金山旧坑道にしても、ニュース映像で見る限りは、昔とさほど変わっていないように思える。手厳しいことばかり書きつらねたが、世界文化遺産を契機に、全島を挙げて集客に励んでいただきたいと思う。
島外のやつに、そんなこと言われる筋合いはない!
と言われそうだが、本土で佐渡観光を揶揄して、
佐渡が島 行ってみぬバカ 二度行くバカ
と言われているのはご存じだろうか? かつては100万人を動員した佐渡観光だが、一度行けば充分と思われたのかもしれない。これはなにも佐渡に限ったことではない。中国人観光客は、日本での印象を「ショボい」、「スケールが小さい」と表している者が少なくない。ただ安いから、近いからという理由でやって来ているだけで、観光客が一巡したら、中国からのインバウンドは望めなくなるのではないだろうか。
日本全体でこれだから、佐渡以外にも鬼怒川や水上で似たような観光の衰退が起こっている。廃業したホテル群が肝試しや心霊スポットになっているのは皆さんご承知のことと思う。
バブル崩壊、コロナ禍を経て佐渡にも廃墟となったホテルは少なくない。これらが観光客の目に触れてイメージダウンの一因にならぬよう、どうか官民挙げて取り組んでいただけたらと思う。
だけど、佐渡観光はネガなことばかりじゃない。わたしは今、猛烈に島に渡ってみたい衝動にかられている。なんたって佐渡には、金山の他にも魅力的なスポットがたくさんあるのだから。小佐渡の昇龍棚田、島内いたるところに点在するダイビングスポット、ちょっと渋いが、地質好きのわたしには佐渡博物館は絶対はずせない。タモリさんだってきっとその魅力にはまると思う。
ドンデン高原から金北山へ続く稜線は花の宝庫である。自衛隊レーダーサイト直下に広がるブナ原生林はスゴイ!のひとこと。あれほど巨大なブナは佐渡でしか見れないのではなかろうか。健脚向きには是非ともお勧めしたい。
なによりも食べ物が美味い!
大佐渡と小佐渡に挟まれた 国中平野で採れる佐渡米は本土では殆ど通していないが、学生時代、ヤミ米屋でバイトしていた私は、その美味しさに驚愕したものだ。魚介については、あえて言うまでもないだろうが、夏場のお勧めトビウオだろうか。両津湾では寒ブリが名産だが、それは観光のオフシーズン。かわりにお勧めしたいのが佐渡産の岩モズク。今ではすっかり沖縄産に押され市場から消えてしまったが、一度食してみられたい。
わたしもブームが落ち着いたら訪れてみたいと思うが、今はただ富岡製糸場や石見銀山のように、一時の隆盛で終わらぬよう願うばかりである。なにはともあれ、世界文化遺産への登録、おめでとうございます!