わたくし、3月頃から目が痒くなり、くしゃみを連発することもしばしばになってまいりました。どうやら人並みに(笑)花粉症になってしまったようです。
花粉症とひとくちに言っても、様々なものがあります。みなさんご存じのスギ花粉症に加え、最近ではヒノキ花粉症が多くなってまいりました。古くは(といっても昭和ですが)ブタクサやヨモギといった、ありふれた植物でも起こることは起こる。しかし、最近とみにクローズアップされるのは、やはりスギ花粉症。杉だって日本に古くから根付いていた植物なわけですから、昭和以前から花粉症があっても不思議ではなりません。なのにどうして、今や国民の七割ともいわれる花粉症患者がいるのでしょうか。
杉の木が多すぎる?
本来の日本の里山の植生は、ドングリやカエデ、ブナといった落葉広葉樹が殆どでした。それを明治維新以降、建材や電信柱に使用するために、麓からアクセスしやすい山肌の雑木は伐採され、杉や檜といった針葉樹に置き換わっていったわけです。たしかに花粉症を伝えるニュース映像では、大量に花粉を飛散させる杉林の光景が映し出されておりますが、それでもかつては花粉症になる人は殆どいなかった…これは何故でしょうか?
リンゴ農家のリンゴ花粉症
長野県内の北部では、リンゴ花粉症というものが存在します。リンゴはサクラと同じバラ科の植物ですから、春には白い花をソメイヨシノのように咲かせます。ところが時代が平成になるころから、リンゴの花粉によるとみられるアレルギー症状を訴える人が増えてきました。特に深刻だったのが、リンゴ農家の、それも比較的高齢の方。そして、発症した人の多くが、幹線国道沿いにお住まいの方だということも疫学的調査で判明しております。
ここで因果関係を疑われたのがディーゼル排気。軽油が高温で燃えたあとに残るススには、様々な化学物質が含まれており、これが鼻の粘膜を刺激して過敏になり、大量に飛散するリンゴ花粉に反応したのではないか…という疑いが濃厚になってまいりました。
以下、国立環境研究所の見解を引用します。
ディーゼル排気の曝露が花粉症の病態を悪化させる機構として、鼻や結膜が刺激に関して過敏な状態にすること、アレルギー反応の元となる抗原に対する抗体産生が亢進すること、好酸球の浸潤による炎症反応の悪化などがあげられます。例として、大気汚染物質の曝露が鼻アレルギーに及ぼす影響とその機構を図6にまとめました。
図4 抗原の繰り返し点眼投与による結膜炎症状に及ぼすディーゼル排気曝露の影響
図5 ディーゼル排気曝露が繰り返し抗原投与による結膜への血漿漏出に及ぼす影響
国立環境研究所
花粉症増加の真犯人
ではディーゼル排気が花粉症増加の主原因なのか?……と言われると、そうではなく、原因のひとつであり、根っこにある原因は如何ともしがたいものがあります。例えばストレス、不規則な食生活、睡眠不足に加え、根っこにある原因、それは…わたしたちの身の回りの環境が清潔になったから!
それの何が悪いの? と思われる方が多いと思われますが、清潔であるが故に寄生虫に触れる機会が少なくなってきたというのが原因です。
ますます、わかりませんよね。
アレルギーは、本来からだを守る免疫機構が暴走した状態です。免疫機構にもいくつか種類がありまして、アトピー性皮膚炎やぜんそくを引き起こすのは本来、回虫、ぎょう虫、サナダムシといった寄生虫に特化した免疫機構(IgE)がその主役なのです。かつては寄生虫から守ってくれた機構ですが、いまでは環境がすっかり清潔になり、手持ち無沙汰になっている。これが化学物質や花粉に反応し、アトピー性皮膚炎や花粉症を引き起こす…ということになっております。ま、専門外なんで突っ込んで説明はしませんけれど(笑)
だからと言って、昔ながらの汚れた住環境で暮らすわけにもいかず、痛し痒しといったところ。わたしは生まれてこのかた、花粉症とは無縁でありましたが、昨春に入院生活を送ってからというもの、いっそう清潔な環境に身を置くようになったせいなのか、花粉症が発症したのではないのかな~等と思っていますが、これはかかりつけの呼吸器内科医の見解を伺ってみることにします。
黄砂の季節は要注意かも
黄砂…中国内陸部のゴビ砂漠やタクラマカンから飛来する砂粒であることはご存じかと思いますが、やはりこちらも近年になって悪者扱いされるようになりました。かつては新潟に赤い雪を降らせる原因として話題となったくらいですが、やはり最近の報道では花粉症や気管支喘息との因果関係が取り沙汰されているわけです。
PM2.5とよばれる微粒子…おもに中国の工業活動によって輩出されるものですが、前述のリンゴ花粉症のような働きをするとされています。で、黄砂ですが、PM2.5ほど手はないにせよ、ディーゼル排気のような働きをする……はずはありません。何故なら“砂”ですから。しかし、これに工業活動で排出された化学物質が付着していることがあり、視程の悪化や、衣服の汚れ以上に日本人の敵愾心を煽る主役になっているようです。まさに坊主憎けりゃ袈裟までの例え通り、中国憎けりゃ黄砂まで、というわけですが、黄砂でもっとも被害を被っているのは中国人民なのですけどね。
【参考】微小粒子状物質曝露が呼吸器による障害および免疫機能に及ぼす影響
(1)PM2.5高感受性群への細菌毒性とDEPの相乗影響
気管支ぜん息、肺炎、気管支炎の既往者や、高齢者、免疫不全者等、PM2.5に高感受性群の人びとは感染症にかかりやすいという特徴を持ち、感染を契機に重症化することがしばしば経験されますが、その病態悪化のメカニズムは明らかにされていません。感受性の高い感染者の急性悪化には、グラム陰性桿菌(たとえば肺炎菌など)がしばしば関与します。そこで、グラム陰性桿菌由来の細菌毒素による炎症性肺障害に、DEPが及ぼす影響を検討しました。その結果、細菌毒素による肺障害はDEPにより顕著に増悪することがわかりました(図8)。
(2)DEP抽出成分と粒子成分の毒性比較
DEPを有機溶媒に溶け出す成分(芳香族炭化水素などの多くの化学物質を含む)と、溶けずに残っている粒子成分に分画し、おのおのについて細菌毒素による急性肺障害を悪化するか否かについて検討しました。その結果、抽出物そのものよりも粒子成分の方が感染時に起きる炎症を悪化させる作用が大きいことが見出され、感染などによる肺炎症状の悪化は粒子状物質により影響を受ける可能性が示唆されました。
図8 曝露による肺炎の悪化、炎症細胞遊走因子(MIP-1α)量変化
国立環境研究所