天候の諺には、科学的に正しいものが存在する
「晩の虹は江戸へ行け、朝の虹は隣へ行くな」
という諺(ことわざ)をご存じでしょうか。夕方に見かける虹は翌日の好天の兆し、朝の虹は天候が崩れる予告ということなのですが、これは日本上空を流れるジェット気流が西から東へ吹いているために、雨雲も西から移動していること、そして虹は太陽を背にした方向に出現する───つまり、夕方の虹は夕日を浴びて東側に雨粒のカーテンが、一方、西側に出現する朝の虹は西側に雨粒があることになり、朝の虹は天候が崩れる兆しということなのです。
気象に関する諺や伝承には信憑性の高いものが多く、「お月さまが笠を被ったら雨の兆し」→高層雲が上空を覆うのは前線が接近している兆し、「ツバメが低く飛ぶと雨」→湿度が高いと巣作りに必要な泥が豊富な地面近くを飛ぶ、などというのが有名でしょうか。でも、「カマキリが高いところに卵を産んだ年は大雪」というのはどうなんでしょうね。そういえば自宅裏のセイタカアワダチソウにカマキリが高いところに卵を産みつけましたが、今年の長期予報では大雪。どちらもハズレてほしい予測ではあります。
医学的な諺、伝承には眉唾も多い
さて、身体や健康に関することとなりますと、とたんに怪しくなる。有名なのは「食いあわせ」。ある食品と、またある食品を同時に口にすると、身体の中で良からぬ反応が起こり健康に障るというもの。有名な組み合わせが、〝ウナギと梅干し〟〝スイカと天ぷら〟───これがまったく信憑性が無い。なにせお複数のお医者さんが、実際に悪い組み合わせを試して、まったくの迷信(または偶然)だったことは検証済みです。
でも、〝カニとかき氷〟だけは信憑性がやや高いとか。たしかに、真夏に鮮度が落ちたカニを食べ、いっしょにかき氷を食べたら腹具合がどうにかなりそうなのはわかりますが。
あと有名なのが、〝秋ナスは嫁に食わすな〟という諺。これについては、
【説1】秋ナスは美味しいから、他家から嫁いできた嫁に食わすのなんかもっての外、というイジワルな姑根性を表現したもの。
という説と、
【説2】秋ナスは消化が悪いから、身ごもった嫁には食べさせるのを控えよう、という思いやりの発露。
とする180度真逆の説があるのですが、みなさんはどうでしょうかね?
たしかにナスは多年草ですから、温暖な地域では翌年も収穫できるそうで、事実オーストラリアでは2年間の収穫が常識なのだとか。で、私も冬に鉢植えのナスを室内で越冬させて翌年に収穫してみたことがあるのですが、越年したナスの実は硬くスジ張っておりました。ということで、秋なすは嫁に食わすな、の真意は、思いやりの発露からを採用したいと思います。
健康にまつわる諺、伝承はどうか
有名なのが、腹八分目に医者要らず、でしょうか。これはまあ、医学的知識に疎くてもわかりそうなもの。諺ではなく伝承でも無い〝ハゲはがんにならない〟と〝バカは風邪をひかない〟はまったくの誤解、というよりは事実誤認のようです。
まず前者。いまや日本人の死因 の第一位となった癌(悪性腫瘍)ですが、高齢でハツラツとしておられる男性は、病気ではないのですから元気に見えます。ですから、見かけ上はがんにならないように勘違いしやすい、というのが定説でした。〝でした〟というのは、ワシントン大学の研究で、禿げている男性は前立腺がんになるリスクが有為に低いとの報告があり、一概に眉唾とは言えなくなった事情があります。禿げている人は男性ホルモン(テストスロン)の分泌が旺盛で、女性ホルモンの分泌量に依存する毛髪に影響を与えて禿げやすいと──これとトレードオフの関係にあるのが前立腺の老化で、老いてもなお〝お盛ん〟な方は、前立腺のがん化を抑制できるということらしいです。
で、後者ですが、そもそもバカの定義が曖昧です。かつては『クイズ・ヘキサゴン2』、今なら『呼び出し先生タナカ』といったテレビ番組では、おバカタレントの珍回答、迷回答がウケておりますが、おバカと評される彼ら、彼女らが風邪をひかないという論拠は怪しい気がします。ですが、〝おバカ〟なキャラクターを能天気な性格と言い換え、さらにもう一捻りすると〝楽天的、楽観的な思考の持ち主〟と言える気がするのです。
憎まれっ子、世に憚るは真実かもしれない
重ねて申し上げますが、〝おバカ〟も〝憎まれっ子〟も定義は曖昧です。馬鹿と利口の判定基準を学力や学歴で語るなら、甲種国家公務員試験に合格するようなトップエリートからしたら、国民の大半はおバカになるのかもしれません。また、組織や会社を厳しく導いていく経営者は、末端のやる気の乏しい社員からすれば憎まれっ子なのでしょう。つまり定義が曖昧であるばかりか、誰の視点で語っているのかも重要になってくるわけです。
しかし、地域の医療に細々とながら関わっている自分といたしましては、憎まれっ子は長生きするのではないか、と肌で感じているのもまた事実なのです。
よく、能天気で言いたい放題な人を揶揄して、「お前は長生きするよ」と表したりします。相手のことを斟酌しない奔放な物言い、あまりに楽観的にすぎる判断───このようなタイプは、失敗せぬよう慎重に努力を重ねてきた人からすれば〝バカ〟な存在であり時に〝憎たらしい〟のかもしれません。ボケとツッコミで構成されるお笑いコンビのネタを想像すればわかりますが、サンドイッチマンの伊達さんは、ボケ役の富沢さんに終始突っ込んでいます。あれ、実生活だったらかなりの確率で喧嘩になりますよ(笑)。
だけど、なんとなくボケ役の富沢さんのほうが、ツッコミの伊達さんより長生きしそうだって思いませんか? 伊達さんが放つ輩(やから)感を割り引いても、富沢さんのほうがより健康的に思えてしまいます。まあ、ボケ担当で私生活も奔放を究めた横山やすしさんは、小さなことからコツコツと努力を重ねてきた相方・西川きよし師匠よりずいぶん前に鬼籍に入られましたが。
はい、ようやく結論です。
歯科の病気でも、ストレスとの関係が無視できません。ため込んだ怒りや不満、絶望は肉体的にもストレスを与え、攻撃ホルモンと呼ばれるアドレナリンの分泌を増加させます。脳が危機を感じているのですから、心臓を強く動かして全身の筋肉や臓器により多くの血液を送り、ブドウ糖を燃焼させるべく呼吸数を増加させて臨戦態勢を整える───この度が過ぎると、過剰に取り込んだ酸素はフリーラジカルという毒物に変化し細胞レベルで身体を錆びさせますし、常態化すれば高血圧を招きます。これがストレスによる循環器障害、がんの本態であるのです。歯科的に限って言えば、唾液の分泌が減少、さらに瞬発力を発揮できるように奥歯で噛みしめる。詳しくは述べませんが、ストレスは免疫機構に悪影響を与える。これらが複雑に、同時多発的に起これば、歯周病や顎関節症を招くというわけです。
虫歯には関係ないのかって?
いやいや、脳は純粋にブドウ糖を消費する臓器ですから、ストレスを浴びればより多くの糖分を欲します。ストレスが高い人ほど肥満傾向にあるのはこのためだと言われております。そして虫歯も……。
みなさんも、憎まれっ子……ではなく、能天気に楽観的に、を心掛けててはいががでしょうか。
それができりゃあ苦労はないですけどね(笑)