珍しく、前回の続きです(笑)
先月のブログでは、生き物は一生の間に食べられる量が決まっているのではないか、腹八分目に医者要らずの虚実について書いてみましたが、アカゲザルの実験で、それはたしかなようです。同様の実験をマウスやラットで行っても、ほぼ同じ結果が得られているとのこと。それを思うと、ギャル曽根ちゃん、大丈夫か?
前回の記事はこちらから。
さて、近年は昭和を代表するエンターティナーの訃報が続いております。なかでも、『ドクタースランプ』、『ドラゴンボール』の作者・鳥山明さんの死は、わたくし的に衝撃的でしたね。享年68、まだまだ活躍できた年齢です。他には、左腕に無敵のサイコガンを仕込んだ宇宙海賊が活躍する『コブラ』の作者・寺沢武一さんが68歳で没、他に若くして鬼籍にはいられたのが『ベルセルク』の作者・三浦健太郎さん。漫画家の短命さが際立っているのは、わたくし的には印象的でしたね。各氏に共通するのは皆さん売れっ子。例外として『ゴルゴ13』の作者さいとうたかおさん(享年84)、ご存じ『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるさん(享年93)は長生きでしたが、彼らの長生きの秘訣(と思われる要因)は後述するとして、なんといっても短命な大漫画家と言えば、手塚治虫さんと石ノ森正太郎さん、ともに享年60歳にトドメを刺すと思うのです。

二人の漫画家に共通するのは売れっ子で、週刊連載を多く抱えていたということ。メジャーな作品だけを挙げても、手塚さんなら鉄腕アトム、ジャングル大帝、リボンの騎士、ブラックジャック、石ノ森さんなら仮面ライダー、人造人間キカイダー、サイボーグ009と枚挙に暇がありません。それら膨大な作品群を、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、キングといった少年週刊誌に平行連載してきたわけで、当時を知る関係者の証言では、お二人は出版社からのオファーをけっして断らなかったそうなのです。だから膨大な数の作品を残せたのですが、その代償は睡眠不足であったのは明らかで、特に手塚治虫さんの睡眠時間はピーク時には1~2時間くらいであっただろうとのことです。
手塚さんは特に完璧主義者で、日テレの24時間テレビのために用意された長編アニメ『バンダーブック』や『海底超特急マリンエキスプレス』にまつわる逸話が有名で、まさに命を削って作品を生み出していようなのです。これについては動画がアップロードされておりますので、興味あるかたは下記リンクをどうぞ。
とにかく凄まじいばかりの勢いと密度で人生を駆け抜けたわけですが、ここで私が申し上げたいのは、ひとりの人間が消費できる時間とエネルギーはみな等しく同じなのではないか、ということ。例えるなら、A地点からB地点へ移動する際に、4~5千CCものガス食いエンジンを搭載した往年のアメ車と、世界初の量産ハイブリッドカー・プリウスではどのような差が生じるのかということなのです。
ひとりの人間が生きているうちに使える時間はみな等しい?
ちょっと前に親ガチャという言葉がもてはやされました。お金持ちの家に生まれるか、貧乏な家庭に育つかで、その後の人生が大きく左右されるという諦めにも似た嘆きなのですが、ある程度は当たっているかもしれません。私だって子供の頃、裕福な家の友達が持っていたおもちゃが羨ましかったり、学校から帰れば専業主婦の母親が暖かく迎え入れてくれる家庭に憧れていたものです。ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ちびまるこちゃんといった子どもの日常を描いたアニメには必ずといってよいほど、家庭間の貧富の差が描かれていますしね。
しかしユニクロの創始者・柳井正さんや、弱者の生存戦略『ランチェスターの法則』で知られるイギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスターはこう説きます。
金持ちにも貧乏人にも等しく与えられるもの、それは時間である
と。
ここで、先ほどのアメ車とプリウスの話に戻ります。

人生に等しく与えられた時間をガソリンに置き換えてみましょう。同じ量のガソリンをアメ車とプリウスに積んでロサンゼルスをスタート、目的は東海岸のニューヨークとします。スタート同時にアメ車はパワーを生かして……いや、そんなに速く走らなくてもいいけれど、ルート66に沿って広大なアメリカ大陸を快適に駆け抜けていきます。沿道の注目を浴び、若い女の子たちも放ってはおかない(はず)。
かたやハイブリッドのプリウス。ドライビングコンピューターのお勧めに従い、なるべくアクセルを踏まぬよう、強くブレーキを踏まぬよう、言ってしまえば〝つまらない〟運転でに終始したとします。さて、両者のうちどちらが遠くまで行けるか──なんて問うまでもないですよね。どこまで行ったかを人生の時間だと思えばいいわけなのですが、では大排気量のマッスルカーは無意味で浪費的なドライブ(人生)だったのかというと、そうでもないと思います。パワーと強靱な足回りを生かして、ロッキー山脈を越えるワインディングロードを爽快に駆け抜けていったはずです。ディーゼル排気をまき散らすノロマなトレーラーをぶち抜き、モニュメントバレーでは風よりも速く地平線に向かって行った……。手塚治虫さんの人生って、まさにこれだと思うんですよね。
で、前述の水木しげるさん、さいとうたかおさんですが……
『ゲゲゲの鬼太郎』、『ゴルゴ13』の他に、二人の作品を挙げられるひとがどれくらいいるでしょうか。二人とも若いころは貸本作家としてご苦労されましたが、そこでエネルギーを使い果たしてしまったのか、鬼太郎、ゴルゴは映像化こそされたものの他に大ヒットと呼べるものはなく、いわば〝寡作の巨匠〟であったと言えます。

水木さんはバブル期に鬼太郎がアニメでリメイクされるまで週刊連載はなく、さいとうさんはゴルゴの他には『鬼平犯科帳』など二作の長期連載しか持っていませんでした。さらにさいとうさんは、漫画製作をストーリー、構成、原画、作画と完全分業化して仕事量をコントロールしておりました。推測ですが、睡眠量も人並みにはあったのではないかと思います。
人生、太く短くか、それとも細く長くか──どちらが良いのかはわたしにはわかりませんが、人間誰しも、自分の思うところとは違う生きざまを強いられているのかもしれませんね。
(つづく)
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